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私立保育園・幼稚園が保育士から残業代請求を受けた時の対応方法について解説

作成:2025年12月10日 更新:2025年12月10日
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私立保育園・幼稚園では、行事準備、持ち帰り仕事などで、保育士の労働時間が長くなりがちです。また、「サービス残業」が慣習化している私立保育園・幼稚園では、保育士から残業代請求を受けるケースもあります。

そして、公立教員に適用される「給特法」は私立園には適用されず、原則として労働基準法に基づく残業代支払い義務があります。

この記事では、私立園が保育士から残業代請求を受けた際のリスク、対応ポイント等について弁護士が解説します。

1 私立園で残業代トラブルが起きやすい理由

私立保育園・幼稚園の教職員・保育士には労働基準法が適用されます。そのため、労働基準法32条の法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える場合、時間外割増賃金の支払義務があります。

私立保育園・幼稚園で残業代請求が発生しやすい理由としては、次の点が挙げられます。

(1)残業代発生に関する認識不足

慢性的な保育士不足による特定の保育士のシフト数や勤務日数の増加している場合、園としてその状況をやむを得ないと考えがちです。

また、労働時間管理が徹底されていないことにより、園としても職員の労働時間を把握できていないことがあり、このような残業代発生に関する認識不足が残業代発生の理由の一つです。

(2)休憩時間を取得できない多忙な労働環境

食事や排泄の介助、睡眠チェックなどで、常時園児を見守る必要があるため、休憩が形骸化しがちです。

休憩を取得できているかは実質的に判断されます。そのため、園児対応のため職務から解放されていないと評価される場合には、その時間は労働をしていたと判断されるリスクがあります。

休憩時間を労働時間と認定した裁判例

・京都地裁令和4年5月11日(令和2年(ワ)第1916号)

休憩時間につき、保育現場を離れられず、食事も園児と一緒に取ることになっていた実態を踏まえて、休憩時間とされていた時間について、休憩時間とは認めず、労働時間であると判断した裁判例です。

(3)持ち帰り残業(資料作成・書類整理等)、時間外業務の存在

園児が在校している時間には対応できない資料作成、書類整理などを持ち帰って行っている場合、自宅に持ち帰って行った分が時間外労働となる可能性があります。

園としては、職員が自律的、自発的に行っていたと認識していたとしても、園側からの具体的な指示や黙認があればトラブルの原因となります。

2 残業代請求を受けたときに最初に確認すべきポイント

従業員から残業代請求があった場合、園としてまず行うべき事項は次のとおりです。

(1)労働時間の実態確認

園内での業務時間

タイムカード・出勤簿・ICカード・シフト表・行事予定・PCログ等を照合し、実際の労働時間を把握します。

園外での業務時間(持ち帰り残業の時間)

従業員から、園外でも職務を行っていたという主張があった場合には、どの業務を、いつ、どの程度行っていたのかを確認します。園として成果物(資料等)の提出指示をしていた場合などは、園外での時間も残業代の対象になり得ます。

他方で、自主的かつ自律的に行っていた業務については、指揮命令に基づいて行ったものではないため、労働時間には当たりません。

所定労働時間が8時間未満の場合(法内残業への注意)

所定労働時間が6時間など、1日の法定労働時間(8時間)未満の労働時間で雇用している場合は、法内残業分は別途賃金を支払う必要があります。

例えば、所定労働時間6時間で採用した従業員が1日に7時間労働した場合には、6時間を超え7時間までの1時間分は別途賃金が発生します。

特に月給制で給与計算している場合には、法内残業代が不払いになりがちであり、注意が必要です。

(2)賃金単価が法的に正しいか確認

残業代計算の際は、賃金単価も正確に算定する必要があります。

基本給のほかに、職務手当、役職手当、調整手当、超勤手当、扶養手当などの名称で手当を支給している場合には、次の除外賃金に該当しなければ残業代計算の際に賃金単価に組み込む必要があります。

除外賃金とは

次の賃金については、賃金単価から除外できます。ただし、このような名称の手当であれば除外できるというわけではなく、実質で判断されます。

・家族手当

・通勤手当

・別居手当

・子女教育手当

・住宅手当

・臨時に支払われた賃金

・一か月を超える期間ごとに支払われる賃金

固定残業手当(みなし残業手当)

固定残業手当が、「残業代部分と基本給部分が明確に区別されていること」などの要件を満たさない場合には、無効となり、固定残業手当を賃金単価に組み込む必要があります。

賃金規程や契約書がない場合でも入社面接や入社後の定期的面接での説明等から固定残業代を有効とした裁判例もありますが(大阪地裁令和3年12月27日)、契約書などがない場合に有効となるケースはそれほど多くはありません。

(3)各種制度の法的有効性の確認

変形労働時間制を採用している場合

変形労働時間制を採用している場合には、当該制度が法律上の要件を満たしているか確認が必要です。

実務上、変形労働時間制と単なるシフト制を区別せず、両者をごちゃまぜにして運用している例も散見され、適切な運用ができていない場合には、残業代計算において不利になる可能性があります。

管理監督者として残業代を支給していない場合

管理監督者に当たれば労働基準法上の労働時間規制の適用が除外されます。

しかし、管理監督者は、職位や資格の名称の問題ではないため、園として管理監督者として扱うと決定しても、法的に無効となる可能性があります。管理監督者は経営者的な立場にある人が想定されているので、園の主任などの立場にあってもこれに該当しないケースが少なくありません。

3 残業代請求を受けた場合の対応フロー

(1)事実確認、主張内容の妥当性の検討

上記「2」の確認ポイントを含めて、従業員側の主張内容の妥当性の検討を行います。

可能であれば、このタイミングから弁護士に相談をした方が望ましいでしょう。

(2)交渉方針の決定

裁判になった場合のリスク、他の職員への波及(伝播)リスク、訴訟コストなど、様々な観点から交渉方針を決定します。場当たり的な対応はせず、判決まで見据えて交渉方針を決定することが重要です。

(3)従業員との交渉

従業員側と交渉を行い、金額が合意できれば合意書を作成します。

事実関係自体に争いがある場合には、反論書面を作成したうえで、交渉を行う場合もあります。

退職した従業員の有給休暇の買い取りなどの付随的な点で調整を図ることもあります。

(4)労働審判・訴訟の対応

交渉がまとまらない場合には、労働審判や労働訴訟の対応を行う必要があります。

労働審判は、2,3か月で解決できる可能性がありますが、異議が出れば訴訟に移行します。

労働訴訟は、一般に半年から1年程度は時間が掛かります。

4 労基署対応

職員が労基署に通報・相談すると、労働基準監督署の調査(照会・立ち入り)が入ることがあります。

「法的に通る主張」と「通らない主張」を峻別して説明することが重要です。

法的に通らない主張にこだわると、労働基準法違反の疑いを強めてしまうリスクがあります。

弁護士は、労基署対応について助言・調査の立ち合いをすることも可能です。

5 ユニオン対応

従業員がユニオンに相談し、ユニオンから団体交渉の申し込まれることもあります。

団体交渉は、1回あたり1,2時間かかるのが通常で、準備時間も含めるとそれなりの時間を費やす必要があります。

また、ユニオンによっては園を突然訪問したり、街宣活動をしたりすることもあります。

近所の評判が重要な保育園では、このような活動による影響は無視できません。

弁護士は、ユニオンの対応や団体交渉の同席などの対応が可能です。

6 適切な対応を行わない場合のリスク

(1)付加金発生のリスク

付加金とは、裁判所が使用者に対して命じる「未払金と同額の金員」のことです(労基法114条)。

簡単に言えば、付加金が命じられると、使用者は未払額の2倍の金員を支払う必要が生じます。

(2)他の従業員からの請求のリスク

対応を放置すると、他の従業員から同様の請求をされる可能性があります。

そして、一度に他の従業員から請求されることにより、未払残業代の支払いのほか、対応に要するコストなどから、場合によっては園の継続自体が困難となる恐れもあります。

(3)評判低下のリスク

近年は、口コミサイト、グーグルマップ、SNSへの書き込みによる影響は無視できません。

特に、裁判になっていることなどが漏れると、それだけで園の評判が下がる恐れがあります。

新規採用が難航し、他の従業員へのしわ寄せなどで悪循環が発生するリスクがあります。

7 弁護士に相談するメリット

弁護士は、次のような対応を行うことが可能です。そして、早期に相談すれば対応できることも多くなります。

・職員側の残業代請求の妥当性の確認と正確な残業代額の算定

・裁判対応(労働審判・訴訟)

・労基署調査に対するアドバイス

・園全体への波及リスクの管理

・今後のリスクを減らす就業規則・賃金規定等の見直し

8 まとめ

私立保育園・私立幼稚園は業務の性質上、残業代トラブルが発生しやすい傾向にあります。

初動対応を誤ると影響が大きいため、早期に専門家に相談して対応方法を決定することが重要です。

従業員から、突然残業代請求をされて対応方法でお悩みの場合は、早めにご相談下さい。初期対応で結果が大きく変わることもあります。

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